皆木 信昭 (みなぎ のぶあき)
<経歴>
1928年、岡山県生まれ、岡山県勝田郡奈義町在住。
詩集『望郷の歌』、『遠い秋』、『明り』、『横仙』、『定年』、『ごんごの渕』、『ごんごの独り言』、『皆木信昭詩集』、『ごんごの風』、『心眼』。
岡山県詩人協会、中四国詩人会、日本現代詩人会、「火片」、各会員。
「コールサック」に寄稿。
<詩作品>
心眼
なんにちも日和がつづくので
明日あたり雨が降らないかと
夜空を仰いだら
赤い星がくっついて二つ
あれは火星のはずなのに
見る方向で二つに見えるのか
両目で見ても
片目で見ても
月が二つ
病院で診てもらったら
白内障
手術すれば治るのでしょうか
まだそこまで進んでいません
それなら当分このまま
ありがたいと思わなくちゃあ
みんなには 一つが
わたしには ふたつ
他人の顔が
ぼやけて見えるからと
悲観することはない
顔の皺が無うなって
女房がだんだん若くなっていく
人の欠点が見えなくなって
みんな立派な人ばかり
自分までなんだか偉くなる
ものごとを見るのは
目でなく心で見る
どこかで聞いたのを思い出した
きさらぎ
いびつな空洞 ひび割れた木肌
こびりついたぜに苔
大方は枯れ落ちて
残った枝の先に
残るいのちを燃やしてか
それとも
未練を断ちきれなくてか
かすかに余香をとどめて
梅の老木の花数輪
散歩したり
盆栽をつついたり
畑を耕したり
山の木を間引いたり
悠々自適か
それとも
無為をもてあました退屈しのぎか
せっかくある老いだから
いつまでもない老いだから
一日一日を悔いが残らぬようにと
意気込んでみても三日と続かず
風の吹くまま気の向くままと
決め込んでみてもやっぱり空しく
残る老いを燃やしてか
燃やすに燃えない老いゆえか
凍りついたきさらぎの空
ちらりほらり雪花
わたしの中の花数輪